涼ちゃんは壁に張り付く私に、丁寧にお辞儀をした。


__本物……?


 一瞬疑った。

だって、テレビや雑誌で見るより、はるかにかっこいい。

そういうものか、本物って。


「ここに入ったの、誰にも気づかれてないよね?

 涼也がこんなかわいい女の子と30近くのおっさんと三人で病院入っていくとこを撮られでもしたら、一大スクープになっちゃうよ。

 一体どういう関係かって。社長にも怒られちゃうし」


吉田さんは顔をしかめながら言った。

私と涼ちゃんと吉田さん。

病院に三人で行くって、一体どういうスクープになるのだろう。


「それより仕事だ。

 僕がこんな状態じゃ、涼也の仕事にも支障が出るし。

 他の社員はもうみんな手いっぱいだし」


「だから俺は大丈夫だよ。

 吉田さんが普段からちゃんとスケジュール管理しといてくれてるから、それ通りに動けば問題ないし」


「そうはいっても、お前ひとりではさすがに全部こなせないだろ。

 差し入れ買ったり、挨拶しに行ったり。

 人気は出ても、まだ駆け出しなんだから」


吉田さんは渋い顔をしながら腕を組む。

本物の涼ちゃんを目の前に、まだ現実を受け止め切れていない私だけど、事の重大さは理解している。

私はとんでもないことをしてしまった。

他人を怪我させただけでなく、一か月の入院。

大人にとっては仕事ができないという致命傷まで負うことになるなんて、初めて知った。

申し訳ない気持ちで、私はようやく壁から離れ、俯いた。