その姿を見送っていると、
「俺たちもあいさつ回り行くぞ」
そう言って涼ちゃんはさっさと控室に入って行った。
「涼ちゃん、こんな時間までどこ行ってたの?」
控室に入りがてら、私は聞いた。
「撮影準備。機材運んだり、小道具のチェックしたり、美術さんの手伝いしたり。
カメラマンの人に今日の具合聞いたり、警備の人と世間話したり」
「私も、一緒に連れてってほしかったな」
涼ちゃんを待っていた間の寂しさやいたたまれなさが思わずこぼれ出るように、私の口から言葉が出た。
「え?」
「だって私、涼ちゃんのマネージャーだし」
そう言う私を一瞥してから、涼ちゃんは荷物を出しながら話し始めた。
「いろんな機材運ぶのは慣れてないとできないし、結構重労働だから。
美鈴には大変だと思うよ。
それにスケジュールもかなり詰まってるから、みんなピリピリしてるし」
「私じゃ、足手まといってこと?」
「そんなこと言ってないだろ?」
「言わなくてもわかるよ。だって涼ちゃん、なんか怒ってるじゃん。
昨日からずっと私のこと避けてるし」
「別に怒ってなし、避けてもいない」
「うそ。だってなんかよそよそしいし、あんまりしゃべってくれないし。
いつも家では無意味に距離近いくせに、昨日はあからさまに私と距離とってたじゃん」
「それは、だから、理性を保つためというか……」
涼ちゃんの声はだんだん小さくなって、もごもごとしてはっきりしない。
そんな涼ちゃんの姿に胸が締め付けられる。
気遣いのできる優しい人だから、きっと言いにくいのだろう。
私がそばにいたら、迷惑だって。
私の目に、涙がたまり始める。
口元が、プルプルと震え始める。
「理性とか、そんな難しい言葉、私にはわかんないよ。
ちゃんと言ってくれないと、わかんない。
はっきり言ってくれた方が、こっちもすっきりするよ」
「そ、そうなの?」
「そ、そうだよ」
なぜかきょとんとした顔をする涼ちゃんに対し、私は虚勢を張る。
「じゃあ、言うけど、俺は……」
その時、コンコンとノックが二回なった。
「はい」と言って私のそばを通りすぎていく涼ちゃんからは、なんだか冷たい空気が放たれていた。
その風が、私の顔をさっと撫でていく。
扉を開けると、スタッフのジャンパーを羽織った男性が立っていた。
「そろそろ打ち合わせ始めますので、よろしくお願いします」
「わかりました」
そう言って、涼ちゃんはいったん扉を閉めた。
「ほら、行くぞ。頭、切り替えろよ。
てか、仕事前に、何言わせんだよ。俺、先行くから。落ち着いたら来いよ」
そう言って、涼ちゃんは控室を出ていく。
その声は呆れているような、怒っているような。
「がっかり」という言葉が聞こえてきそうだった。
私の胸が不穏な音で、一人ぼっちになった控室に響く。
__私は、一体何をしているのだろう。
仕事を少しずつ覚えて、大人に混ざって仕事をして、涼ちゃんの隣でニコニコして。
それで、涼ちゃんのマネージャーになった気でいたのかもしれない。
そんな自分が恥ずかしい。
メイクをして大人びた服を着たって、私は所詮、何をやってもダメな女子高生。
しんとした控室の床に、ポタッ、ポタッと、涙が落ちる音が寂し気に響いた。


