人や物の流れにうっとり見とれていると、コンコンと頭上でノックをする音が聞こえた。

ふっと見上げると、涼しげな微笑みをこちらに向ける人と目が合った。

さらさらとして目を見張るような明るい茶髪に、くっきりとした二重瞼。

鼻筋がすっと高く、薄い唇をかすかに引いている。

白カッターシャツのボタンはみだらに外され、まぶしすぎる白のパンツは、白のサスペンダーでつながっている。

全身真っ白な衣装が、天井から降り注ぐ蛍光灯の光を浴びあて、さらにまぶしく見える。

数秒見つめあったのち、私の頭はその人が誰なのか認識し始めて、目と口を徐々に大きくしていった。

その人は、お母さんがファンクラブ登録までして追っかけをしているアイドルグループのメンバーの一人、


「は、早坂、楓……」


私が名前をつぶやくと、優しそうな瞳を隠すように、瞼が弓なりにふにゃりとなった。

口角がゆるりと持ち上げられ、その表情から、ほわほわとした空気が醸し出される。

しばらくその柔らかな空気に浸っていたけど、私はハッと我に返って慌てて口を押えた。


「す、すみません。呼び捨てして。

 早坂楓さん、ですよね? 今日はよろしくお願いします」


そう、今日、涼ちゃんと仕事をするのは、こちらの早坂楓君なのだ。