「美鈴、もう行くぞ」

「あ、うん」


昨日の大雨や雷が嘘のような、雲ひとつない快晴になった。

あの嵐が連れ去ったのか、夏らしさが少しばかり和らいだような空気だった。

それでも日差しはまだ強く、暑いことに違いはなかった。

結局、昨日打ち合わせした時間よりもかなり早く出発することになった。

別々の玄関から出て、電車の別々の車両に乗り込む。

電車内にはほとんど乗客はいなかった。

だから、隣の車両の涼ちゃんの姿がよく見えた。

スマホに目を落としているのに、私のところには何のメッセージも届かない。

涼ちゃんの姿とスマホを何度も往復している間に、今日の撮影現場に到着した。

あたかもそこで今日初めて会ったかのように、私たちは片手をあげて挨拶をする。

いつもならここで笑いあうところだけど、涼ちゃんはすたすたとスタジオの中に入っていった。

予定よりもずっと早くやってきたので、そのスタジオで働く人たちが数人いるだけで、今日の撮影の関係者らしき人は誰もいなかった。

控室に通されて、いつもなら時間があれば他の仕事の打ち合わせをするところだけど、涼ちゃんは荷物を置いてすぐに出て行ってしまった。

ついていこうとすると、「一人で大丈夫だから」と、すたすたと歩いて行ってしまう。


__やっぱり、避けられてるよね。


何かしただろうか。

思い当たることすべてに謝罪していたら、一日が終わってしまいそうだ。

私はその背中を見送って、再び控室に戻った。