__「美鈴」


これも、幻聴だろうか。

白い景色がうっすらと見えている。

自分でも目を開けているのか閉じているのかわからない。


「美鈴、起きる時間だぞ」


起きろと言われても、自分でも寝たかどうかわからない。

ずっと起きているような気もするし、寝ていたような気もするし。


コンコンコンコン……


いよいよ涼ちゃんが私の部屋の扉をたたきだす。

いつもなら「開けるよ」とか言って入ってくるくせに、今日はノックどまりだ。


「起きてるよ」


かすれた声でそう答えると、ノックは鳴りやんだ。


「準備できてるの?」

「まだ……」

「早くしろよ」

「はーい」


親子みたいなそんないつもの会話をすると、涼ちゃんの気配が遠ざかっていく。

天井を見上げて何度か目をぱちぱちしてみる。

そのたびに目元から「パチッ、パチッ」と乾いた音がする。

目がかすんで重い。

なんとか起き上がって洗面台の前に立つと、目はありえないくらい充血し、目の下には絵で描くようなクマができている。

顔を洗って出てくると、テーブルの上にせかせかと朝食を並べている涼ちゃんと目が合った。


「早く食べろ……よ」


私の顔を見て、涼ちゃんはあからさまにぎょっとした顔をした。

だけど涼ちゃんはすぐに顔をそらして、朝食準備に戻った。

いつもなら二人そろって食べ始める朝食も、今日は一人で「いただきます」と手を合わせる。

静かすぎる朝だった。

いつもなら何かしら会話があるのに、今日の涼ちゃんはまるで息を止めているかのように何も言わなかった。

常に伏し目がちで、昨日同様、私と視線を合わせようとしてくれない。

自分は先に朝食を済ませてしまったようで、遅れて朝食を取り始めた私の髪をささっとまとめ、私が食べ終わったタイミングでメイクをして、片づけをして。

手際よく朝の準備をしていく。

その間に私も準備を済ませる。

まるで涼ちゃんの無言の圧にせかされるように。