開け放たれた扉からは、かすかにテレビの音がする。

だけど涼ちゃんはそれを気にすることなくシャープペンを走らせる。

時々涼ちゃんの口から、意味不明な言葉が繰り出される。

だけど私の耳にはテレビの音も涼ちゃんの声も入ってこない。

自分の心臓がどくどくと大きく早く鳴る音しか聞こえていない。


狭い部屋の真ん中に置かれた小さな机には、教科書や問題集、ノートが広げられてもういっぱいになっている。

ベッドや勉強机、タンスや本棚がぎっしりと詰め込まれた私の部屋に、高校生が二人座れるスペースなんてほんのわずかだった。

その隙間のようなスペースに、私と涼ちゃんは肩を寄せ合って座っている。

肩や腕は当然のようにふれあい、太もも同士も薄いパジャマ越しに密着している。

頭も頬もほんの少し動けばぶつかる距離にある。

顔のすぐ間近に涼ちゃんの顔があって、ちらりと視線を動かしただけでその瞳にぶつかる。

涼ちゃんの声と一緒に吐き出される吐息を首筋あたりで感じると、変な息が漏れそうになる。

そして涼ちゃんから漂ういい匂い。

短い呼吸の合間に大きく深呼吸すると、その香りが鼻孔を心地よくくすぐる。

そのたびに、白目をむいて後ろに倒れてしまいそうになる。


「美鈴?」


その声にハッとなって意識が戻る。


「大丈夫? ボーっとしてるけど。暑い?」

「え? 大丈夫だよ」

「でも、顔、赤くない?」

「気のせいだよ。全然平気」

「えー、だって……」


そう聞こえたかと思うと、私のおでこに、とんと何かがぶつかる感じがした。

そっと視線を上げると、涼ちゃんの目がもうすぐ目の前にある。

鼻先が、ぶつかっている。

唇どうしが、あと数ミリで触れそうになる。

私は目をかっと見開いた。

この状態から、何もできない、動けない。息ができない。


「疲れてんのかな。それとも、急に勉強しすぎた?」

__一言、多い。


 そこで私の意識は、途切れた。