私が何も言わないでいることから何かを悟った涼ちゃんは、「そうだ」と明るい声で言った。


「一緒に勉強、する?」

「え?」

「美鈴もマネージャー業務頑張ってやってくれてるしさ。

 こういう仕事しながら勉強もするの大変だろ。

 一緒にやって、早く片付けようぜ」


こんなことになったのはもうほとんど私が原因なのに、涼ちゃんの情けある言葉に、胸がきゅっと締め付けられる。


「いいの? 迷惑じゃない?」

「なんで迷惑? じゃあ俺、荷物持っていくから、部屋で待ってて」

「……えっ?」


思わず大きな声が出た。


「なに?」

「わ、私の部屋でやる、ってこと?」

「そうだけど……。ここだとテレビの音、気にならない?」


リビングのすぐ隣のキッチンでは、お母さんがテレビの前に張り付いて音楽番組を見ている。

そこからはきらきらとした音楽と、甘ったるい歌声が漏れ聞こえてくる。


「俺テレビついてると気になっちゃうからさ。

 自分だったらこうするなあとか、俺もああいう感じにやりたいなあとか。

 職業病ってやつ」

「そ、そう……だね」と口角を引きつらせながら相槌を打つ私のそばで、涼ちゃんはご機嫌な様子で机に広げていた荷物をまとめ始めた。

その姿を見守る私の頭の中では、小さな私が絶叫している。


__え? 部屋に二人きり? 密室?

  どうする? どうする? どうするー――――?