涼ちゃんのお腹側にはリュック、両手に吉田さんの紙袋二つ。

そして背中には私。

それらをすべて抱えたまま、涼ちゃんはいつものスピードですたすたと歩いた。


「やっぱ自分で歩くよ。荷物多いし」

「いいよ。それに、俺が全部持った方が、早く帰れるし。

 美鈴、歩くの遅いんだもんな」


「だから言ってるじゃん。私、運動神経悪いし、体力ないし、力もないし」


「ははっ」と涼ちゃんは軽く笑う。


「今度から荷物は俺が持つから」

「だめだよ。それって普通、マネージャーの仕事でしょ?」

「そんなこと、誰が決めたんだよ。とにかく、美鈴の荷物は俺が持つから。

 だから、ちゃんと俺について来いよ」


そんな優しい言葉に、胸が締め付けられる。

首に巻き付けた腕に、思わずぐっと力が入る。

ゆだねてはいけないと思っていた体重を、涼ちゃんにずしりとかけてみた。

涼ちゃんとの密着度がぐんと高くなると、その体温も、匂いも、ぐっと濃くなった。

涼ちゃんの背中の上でとろとろとまどろみかけたとき、「あのさあ」という涼ちゃんの声が、背中から伝ってお腹のほうに響いてきた。

それでもまだ意識は、少し遠くの方にあった。


「俺たちさ、このまま一緒に暮らさない?」


その言葉に、思わず背中の上で飛び起きると、涼ちゃんがバランスを崩した。


「いや、急に暴れると危ないから」

「急に何言ってんの?」

「一緒に暮らした方が、仕事上都合よくない?

 俺が毎日美鈴を起こしてやれば遅刻だってないし、帰ってから次の日の打ち合わせもしやすいし、今日みたいにメイクも髪もやってあげられるし」

「そうは言っても……、年頃の娘が健全な男子の家に上がり込むなんて……」

「誰がうちに来いって言ったの?」

「え?」

「このまま美鈴の家に泊めてもらえないかなあ……。夏休みの間だけ。

 それだったら、美鈴も美鈴の両親も安心でしょ。

 健全な男子と年頃の娘が一緒にいても」


__そんな、安心って……


いくら涼ちゃんがイケメンで爽やかな芸能人とはいえ、中身は高校二年生の男子だ。

そんな男子を、年頃の娘とひとつ屋根の下で暮らすことを許す親なんてどこにも……