そんなことをぼんやりしていたら、涼ちゃんが突然私のほうに背中を向けてひざまずいた。


「ほら」

「え?」

「乗れよ。負ぶってやるから」

「……えええ?」


ここに、乗る?

この背中に、乗るの?


「い、いいよ。自分で歩けるし」


「寝ながら歩いて事故でもしたら、笑いもんだろ。

 それに、足、痛いんじゃないの?」


その言葉に、ぎくっとなる。


実はそうなのだ。

履き慣れないパンプスに、指先が悲鳴を上げていた。

靴ずれもしている。


__涼ちゃん、気づいてたんだ。


差し出されたその広い背中に、涙が誘われる。

甘えたくなる。

すべてを委ねたくなる。

だから私は、そっと手を伸ばした。

肩に手を置くと、そこから涼ちゃんの体温が手のひらを伝って上昇してくる。

体を密着させると、その温かさに息ができなくなる。

鼻先を、変装用のキャップからはみだしたチクチクとした毛先がくすぐり、整髪料の匂いが混じったいい匂いが、私の脳をとろりととろけさせる。


__はあ、気持ちいい。


なんだか変な気分になる。

体重はなるべく預けないようにしたいのに、疲れも手伝って、その背中に身を委ねてしまう。

涼ちゃんは私を背負って立ち上がった。