私も鞄と吉田さんから預かった紙袋二つ、そして用意されたシンプルな黒のパンプスを持って玄関に向かった。
玄関の姿見に映った自分の姿がふと目に入って、思わず目を見開いた。
「これ、私?」
そこには高校生の私はいない。
大人になった未来の私がいた。
いつもの相棒のボブは、どこにもいなかった。
「え? すごい」
感心していると、鏡の中に、穏やかな笑みを浮かべる涼ちゃんを見つけた。
「明日は、もっときれいにしてやるよ」
その鏡越しに映った自信ありげな涼ちゃんの表情に、顔がかあっと熱を帯びてくる。
「あれ? チーク塗りすぎた?」
涼ちゃんはのん気にそんなことを気にしている。
「まあ、今日はそんなこと言ってられないから。とにかく急ぐぞ」
「あ、うん」
そう言いあいながら、玄関を慌ただしく飛び出した。


