__コンコンコン……コンコンコン……

扉をたたく音が頭に響く。


「美鈴」


遠くの方で、お母さんとは違う声がする。

なんだか甘くて、耳がとろけるような心地よい声。

私の名前をこんなに気持ちよく呼んでくれる人、うちにいたっけ?


「美鈴、起きてる?」


もう少し。

もう少しだけ、その声を聞いていたい。

そうすれば、もう一度眠れる。

持ち上がりかけた重たい瞼が再び閉じようとしたとき、


「美鈴、入るよ」


そう言いながら、扉がばっと開かれた。

その音に体がびくりとなって瞼も一緒に上がる。

目の前にいたのは、


「りょっ、りょ、りょ、りょ……」

「それはもうわかったから」


すかさず涼ちゃんは私の動揺を切り捨てた。

先ほどまで重かった瞼は軽々と持ち上げられ、一気に眠気が吹き飛ぶ。

涼ちゃんは部屋の入り口で、呆然と部屋の中を見渡していた。

明らかに、顔がゆがんでいる。

その視線の先を追って、私は慌てて部屋を片付け始めた。


「ああ、ごめん。部屋荒れてて。もう急に入ってこないでよ。

 年頃の女子の部屋なんだから、もう少し気を使ってよ」


へらへらとしゃべりながらも、私の手は高速で周りに散らばった資料をかき集めている。


「なんか用だった? あ、お腹すいた? お母さんいない?」

「いや、朝ごはんできたし。食べたらすぐ出るぞ」


時計を見ると、まだ朝の6時だった。

夏休みなのに6時起床って。

小学校のラジオ体操があったときでさえ、そんな時間に起きたことないのに。