そこまでの意識は、ちゃんとあった。
そこから意識が戻ってきたのは、どれくらいの時間が経ってからだろう。
耳の奥の方で、かすかに声がする。
耳に残る独特な声で駅名が連呼されている。
徐々に拓けていく視界には、人が行き来しているのがぼんやりと映る。
そして耳をつんざくような発車ベルが体を震わせる。
その音で、すべてのものが一気にクリアになる。
血の気が引いたのは、嫌な予感の合図だ。
私はすべての荷物と「なに?」と寝ぼけ眼な涼ちゃんの手を取って、開いている扉に猛ダッシュした。
降りたのと同時に、電車の扉が閉まった。
「はあ、間に合った」と安堵のため息をついてあたりを見渡すと、そこには見慣れない風景があった。
感じる空気もなんだかよそよそしい。
湿った空気に混じって、草木が生い茂る独特な匂いが不穏な風に乗ってやってくる。
それをむき出しになった肌でじわじわと感じながら駅名を確認すると、再び血の気が引いた。
私の様子を不審に思ったのか、涼ちゃんは私と一緒にあたりを見渡しながら聞いた。
「乗り過ごした?」
「い、いや……えっと、ひとつ、早かった、かな?」
上ずる私の声だけが空しくそこに浮遊して、私たちの間には沈黙だけが流れる。


