「あんたも羽瀬さんと吉田さんに迷惑かけないように頑張れよ」
ぼんやりと涼ちゃんの働きぶりを見つめていた私の耳に、野太い声が届く。
その声が、私の背中を押してくれている気がした。
ふーっと息を一つ吐き出して、足を一歩踏み出そうとしたとき、「それから……」と呼び止められる。
「俺はくまさんじゃなくて、「久間さん」だ。アクセントに気を付けろ」
久間さんは私に社員証を掲げて、にっと笑った。
私もそれにこたえるように、片方の口角を引き上げて苦笑いを返した。
そして、再び一点を目指して歩みを進める。
凛とたたずむその背中に向かって。
震える足を踏ん張って、息を吸う。
涼ちゃんのそばまで来るといったん立ち止まった。
そして止めていた息を吐き出す。
そこには、「あの」という小さな声が混ざった。
その声に反応した涼ちゃんは、驚いた顔で私を見た。
そんな涼ちゃんに強いまなざしを送ってから、私は涼ちゃんと話していた相手に向き直った。
そして、息を大きく吸って言った。
「羽瀬涼也の、専属マネージャーの田村美鈴です。よろしくお願いします」
その声は、撮影スタジオの隅々にまで響き渡るように広がっていった。
それと同時に、あちこちから、痛いほどの視線を感じた。


