これ以上病室にいると、次に何をされるかわからない。

そんな警戒心が働いてそそくさと病室を後にしようとした。

扉に手をかけようとしたとき、「あ、言い忘れたことが」と吉田さんに呼び止められた。

十分警戒しながら、距離をとって振り返った。


「恋は、だめだからね」


表情は穏やかなのに、光るその目は厳しく見えた。

その冷ややかな目に体がぞくりとなった。

「はーい」と小さく返事をして私は病室を出た。


__恋なんて、するわけないのに。



 確かに涼ちゃんはかっこいい。

テレビで見るより、雑誌で見るより、何倍もかっこいい。

それは認める。

だけど、それ以上の関係なんかになるわけがない。

彼は画面の中の人。

私たちの間には超薄型テレビという境界線がはっきり見えている。

芸能人と一般人が、そうやすやすと恋愛できるとも思えない。

いちファンになってあげてもいいけど、それ以上は考えられない。

ありえない。

こうして私がマネージャーになって、涼ちゃんが私の日常に入り込んでしまったのだって、ただの事故で、私の自己管理能力のなさが引き起こした災難みたいなものだ。

私にとっては早めの社会人経験。

長い人生の中の、一通過点のようなもの。