涼ちゃんは新しいメイク術を会得したようで、それを私で実践している。

目の前で、涼ちゃんが真剣に、私の目元にラインを入れる。

毎日のようにやってもらっているのに、この瞬間はいつも緊張する。

目の前の涼ちゃんに、いつまでもドキドキしている。


「よしっ、OK」


時計を見ると、涼ちゃんが昨夜伝えてくれた出勤時間だった。


「うわっ、ギリギリ」


慌てて玄関に向かおうとすると、涼ちゃんに腕をぐっと掴まれる。


「美鈴、忘れ物」

「え? 何か忘れてる?」


鞄の中をごそごそとしていると、急に涼ちゃんに後ろから抱きしめられる。


「ちょっ、ちょっと涼ちゃん。遅れちゃうよ」

「大丈夫だよ」


涼ちゃんは落ち着いた声で言う。

その声は、なんだか熱を帯びている。


「涼ちゃん?」


私のかすれた声は、涼ちゃんには届かない。

涼ちゃんは私を抱きかかえたまま、唇を頭にすり寄せてくる。

私の体に這わせる涼ちゃんの手の動きが、なんだか落ち着かない。


「涼ちゃん、だめだよ。もう行かなきゃ」


たしなめる口調に対して、体は思う様に動かない。


「大丈夫だって。この時間も、スケジュールに織り込み済みだから」

「え?」

「俺を誰だと思ってんの?」



__ああ、そうだ。




そう思った瞬間、体の力が抜けていく。




「俺は君の……」




__あなたは私の……







__「専属マネージャー」。