「こらこら、そこ、イチャツキ禁止」


楓君の存在をすっかり忘れていた私は、急に声をかけられて思わずばっと涼ちゃんから離れた。

「邪魔すんなよ」と涼ちゃんはふてくされた顔で楓君の方に歩みを進める。

二人は何か言いあっている。

そうかと思ったら、カメラをのぞいたり、撮影場所の相談を始める。

相変わらず、仲がいい。


「ほら、美鈴、早く来いよ」


そんな二人をほほえましく見ていると、涼ちゃんが私に手を差し伸べる。

私がその手にそっと自分の手を置くと、満足げな涼ちゃんの目と出会う。



「俺が、美鈴を世界で一番かわいくしてやるから」



ぎゅっと握られた手を、私もぎゅっと握り返す。

もうその手を離さないように。




「……うん」



カシャンというシャッターを切る音は、桜が舞う青空に高らかに響き、春色の風景を何度も切り取った。