「きゃー――」
廊下側の女子たちが口を押えて小さな悲鳴を上げたので、そちらに一気に視線が向けられた。
男子たちも、ざわつき始めた。
私の席からは、まだ状況が確認できない。
「なに? なになに?」
誰に問うわけでもなく声を出しながら、首を伸ばす。
そしてようやく見えたその姿に、目を見張った。
教室中がざわめきたつその理由に、納得。
「はいはい、静かに。では自己紹介して」
先生に促され、転校生は一歩前に出る。
「羽瀬涼也です。よろしくお願いします」
聞き慣れた懐かしい声が、鼓膜を心地よく震わせる。
まっすぐと前を見つめる視線に、ドキドキと心臓が高鳴る。
「ということで、羽瀬君の席は、えっと……」
と言いながら、先生は黒板に貼られている座席表に指を走らせる。
「ああ、田村さんの後ろだね」
「……えっ」
思わず大きな声と一緒に飛びのいた。
その瞬間に椅子も机もガタガタと音を立てて乱れる。
「なんだ、田村は新学期早々騒がしいなあ」
クラスのみんなに笑われながら、「すみません」と体を小さくする。
恥ずかしさにうつむいていると、私の乱れた机をそっと直す人がいた。
顔を上げると、涼ちゃんはなんでもない顔をして、私の机といすを直した。
目が合うと、涼ちゃんは口元を少しだけ上げた。
きりりとした眉毛が少し下がって、呆れているような、それでも、優しい瞳で私を見る。
「よろしくね」
小さな声でそう言った。
私は涼ちゃんに直してもらった席にぎこちなく座った。
私の後ろに、涼ちゃんがいる。
__ほんとに? ほんとにあの羽瀬涼也で合っているのだろうか。
心臓の音が背中の方まで伝っていく。
「じゃあ早速だけど、テスト始めるぞ」
その声に心臓がばくんと鳴った。


