しっかり寝た感覚はあるのに、空腹だからなのか体に力が入らない。

ふらふらとなりながら、マンションから出た。

まだ太陽は起きだしたばかりだというのに、もうコンクリートの地面が熱せられている。


「仕事が早いなあ」


太陽に向かってぼやく。

日差しを手で遮りながらエントランスを離れたその時、


「あの、すみません」


控えめに話しかける女性の声が聞こえて、私は振り返った。

それと同時に私の目の前に突き出されたものが何なのか、はじめはわからなかった。


「今、そこのマンションから出てきましたよね?」

「は、はい……」

「昨夜、羽瀬涼也さんと一緒に、こちらのマンションに入っていかれましたよね?」


__え?


「体を寄せ合って、かなり親し気な様子でしたが、お二人はどのような関係なんですか?」

「え、えっと……」


私が答えられないでいると、次の質問が飛んでくる。


「昨日の夜から、今さっきまで一緒に過ごされてたんですか?」

「えっと、その……」

「この写真、あなたですよね?」


そう言って突きつけられたのは、涼ちゃんを支えながら歩く私の後ろ姿だった。

何枚かある写真をめくっていって、次の写真で私は目を見張った。

それはスタジオの廊下の写真だった。

涼ちゃんの体が私に覆いかぶさっている時の写真だ。

でもこの写真は、まるで涼ちゃんが私に迫っているようにも見える。

うまくそう撮られている。

だけどおかしい。

だってあそこには、私たち以外誰もいなかったはず。

どうしてこんな写真が。


「これはどう見ても、親しい間柄の行為と捉えられてもおかしくないと思いますが、実際はどうなんですか?

 お二人はそういう関係ということでよろしいんですか?」


「い、いえ、そんなんでは……」

「では、お二人の関係は何ですか?

 特別な関係でないと、こんなことしませんよね?」


「違うんです、これは。彼は体調を崩してて、それで……」

「それであなたが、羽瀬さんのお家で夜通し看病ということですか?」

「そう、です。いや違います」

「ではこちらの写真はどう説明されるんですか?

 誰もいない撮影スタジオで、密会されてたんですか?」


「だからこれも違うんです」

「ではあなたは誰なんですか? 羽瀬さんとどういう関係なんですか?」

「私は、涼ちゃんの……」


ボイスレコーダーが私の目の前にさらに突き付けられる。

カメラを持った男の人が私にカメラを向けて迫ってきた、その時だった。