唯くん、大丈夫?


「…!?」


「承泣(しょうきゅう)つってな。」


「え…?」


「眼精疲労とかに効くツボなんだけど。涙を止める作用もあるらしい。知らんけど。」


「…知らんのかい。」


「人づての人づてだから知らん。」


てらちんがフ、と笑った。


「まぁ一応効いたみたいだな。」







本当だ。






「彼氏にフラれたぐらいで泣くなよ、羽根村。」



てらちんは言いながら私の頭を軽くワシャワシャッとして、背中を向けた。



…ん?


「え、待って!フラれてないよ!」



慌ててその背中に言うと、てらちんがメガネの奥から流し目をよこした。



「ん?そうなのか…じゃあ涙はフラれた時用に取っといた方がいいな。」



てらちんは意地悪な笑みを浮かべて教室の中に入っていった。



「おーし授業始めるぞー」



いつも通りてらちんの気怠い声が教室の中から聞こえる。



てらちん。

優しい。



自分で目の下のショウキュウを押しながら、

「…うん。フラれたわけじゃないもんね。」

とひとりごとを言って教室の扉を開いた。




「はい、羽根村遅刻ー。罰として一問目当てまーす。」


「なーーーん!!」




いつも通り優しくないてらちんに元気をもらって、

外に出ようとしていた私の涙はなんとかまた私の中におさまってくれたのだった。