唯くん、大丈夫?

「おい羽根村ー。そこで何してるー。」




閉められた扉の前で呆然とする私に、
たまたまやってきたてらちんが声をかける。




「もう始まるぞ。ほら。」




通りすがりに持っているバインダーで私の頭をポンとたたく。





「…」




いつも通り『ハーイ!』と元気に返事できない私に、てらちんが足を止めて振り返る。





この感情が『悲しい』のか『ムカつく』のか『悔しい』のか、分からない。



とにかく、ショックで


唯くんにめんどくせーと思われてしまったことがショックで



てらちんの顔を見ながら、目にじわじわと涙が溜まっていくのを感じる。



…あ、嫌だ。

泣きたくない。

こんなところで、こんなタイミングで泣いたらてらちんが心配して、クラスのみんなにもバレちゃうかもしれない。



「…あ…はは。ハーイ」


震える声で言って顔を無理矢理へらへらさせる。



「…」



てらちんが、踵を返して私の元へやってくる。





あぁ、てらちんごめん。ダメだ。どうしよう。



胸が詰まって苦しくて、涙が外に出ようとおしよせてくる。






てらちんが私のすぐ前までやってきて、少しかがんで私の顔を覗いた。


そして、






「ほっ。」






謎の掛け声と共に、

私の両目の涙袋の下辺りを親指で軽く押した。