今夜は、本当に月が綺麗だ。








「フフッ。唯くん!唯くん!」







背中にいる優花が、


楽しそうな声で俺を呼ぶ。







「バイクってこんなに楽しいんだねぇ!あはは」







屈託なく笑う優花の声は、静かな夏の夜に混ざってキラキラと流れ去っていく。







「うん」






俺はアクセルスロットルを回して

もうすぐ終わってしまう優花との時間を愛おしく思いながら

真っ暗な山道をかすかな電灯とバイクのライトだけを頼りに下っていく。







とにかく優花が楽しそうでよかった。

歩君の言う通り、思い切って勉強さぼって来た甲斐があった。






暗いトンネルに入ると、少し怖いのか優花がギュッと俺の腰回りに抱きつく。





…めっちゃ可愛いんだけどさ。

当たるんだよ、それ。

優花の、その、それ。

やべぇ…事故りそう。

集中、集中…





「…ねぇ唯くん!花火すっごく綺麗だったね!また来年も見たいなぁ!」


「んー」


「ね?また一緒に見ようね!」


「いいけど…来年は下から見たい」


「えぇーなんでー?今日のところからまた見たいよ」


優花が少し不服そうに言う。


「…浴衣じゃバイク乗れないだろ。」



来年は優花の浴衣見たい。

絶対に見たい。

だって絶対に可愛い。





「…そっかぁ。フフッ」




察したらしい優花が嬉しそうに笑いをこぼす。




「じゃあ唯くんの浴衣買っとかなくちゃね!」




優花がそう言ってまたボスッと背中に抱きつく。







あー、


かわいいな。


やっぱりこのままどっかに連れ去っちゃおうか。










…うん。

そうだ。











どうしてこの時、そうしなかったんだろう。












だって俺たちはこのあと、













































「…」








眩しい光に苛立ちながら、

なんとか重い瞼を押し上げる。