「…え…?」
唯くんの弱々しく震えた声が、私の知ってる唯くんと同一人物とは思えなくて耳を疑った。
そしてそこでようやく気付いた。
…ない
唯くんの左手にブレスレットが、ない
私は唯くんの手を離した。
「…」
唯くんは少し間を置いてから再び階段を登り始める。
『世の中には、仕方ないことがたくさんあるのよ』
働かなくなった私の頭に、唐突にお母さんの言葉が蘇る。
仕方ない
これも、仕方ない
全部受け止めよう
唯くんの気持ち、全部
そしてまた不意打ちの涙が一粒落ちた時だった。
強いめまいがした私は後ろによろけた。
「…あ」
落ちる。