教室のドアが開いて、長嶺君が戻ってきた。


「おまたせー。はい、どーぞ。」


私の手にノートのコピーと、チョコレートを手渡した。


「ありがと……えっ?これ…」


「あ、チョコ嫌い?」


「や、好きだけど…」


困惑する私に、長嶺君がサラッと言った。

「心が弱ってる時は甘いもんに限るでしょ」


「え」


「じゃあまた明日。おつかれー」


「えっ!?ちょちょっと待っ…」


私の制止も無視して、長嶺君は軽い足取りでさっさと教室から出て行ってしまった。



私は手の中の小さなチョコに目をうつす。




…弱ってるの、気づいてくれたんだ。




チョコの包み紙を開けて口の中に頬張ると、甘さがジワ…と身体に浸透していく。




…優しさが、沁みる。




いや、だめだよ、ほだされちゃいけない。

相手はあのしつこいナンパ男。




…でも、そんなに悪い人じゃないのかな…?




手にしたノートのコピーを見る。

チャラ男のくせに、キレイな字。

すごく見やすい。

多分、これは頭がいい人のノートだ。





今日だけ。

悔しいけど今日だけ甘えさせてもらう。

今度こそノートしっかり取って、チャラみねくんを見返してやろうじゃないか…!




スマホを取り出して、ロック画面の動かない唯くんを見る。




うぅ…

唯くん。

会いたい。

唯くんに会いたい。




でも、今は我慢。我慢だ。

私はスマホをギュッと握りしめる。



始まったばかりの夏休み。

前途多難だけど、

わたし頑張るよ!唯くん!