なにやら両耳を塞いで一生懸命唱え続ける唯くんの背中を眺めてると、

遠くの方で誰かが「夏休みさー…」と言ってる声が聞こえた。


私は昨夜お父さんと話したことを思い出す。




「そーだ。ねーねー唯くん」


私は呑気な声で唯くんの背中をちょんちょんつつく。

あん?と顔を向けられて、さっき喋んないでと言われたことを思い出す。


ごめんごめん、と平謝りして私は本題に入った。


「あのね、夏休みから予備校に行こうと思ってるんだけど、唯くん一緒に行かない?」

「予備校?」

「うん!お父さんの知り合いがやってて、行ってみないかって言われて。対面授業のグループ指導塾なんだけど。一緒にどう?」

「やだ」

「え」


まさかの即答。


「えー!一緒に行こうよー!」

「無理」

「ケチ!」

「ケチだよ」


もう寿限無を唱えなくて良くなったらしい唯くんは、興味なさそうに私の髪を指に巻いて遊び始めた。



…むぅ。つれない。


夏休みだよ?

学校ないんだよ?

毎日、会えないんだよ…?




私は苦肉の策に出た。






「…嫉妬しないの?」






その言葉に、唯くんが手を止める。


「…」


「予備校、男の子いっぱいいるよ?」






…うわ。自分で言っときながら、嫌な女。