安堂くんは楽しそうに笑いながら帰っていった。
…仮にも今からデートの女の子の髪の毛をぐしゃぐしゃにしていいの?
ちょっと心で文句を言いながら手櫛で髪を整える。
そしてため息を一つ。
「……いつまでそこにいる気ですか」
私が背をむけていた柱の死角、そこにいる人を私は知っている。
「龍臣先輩」
「…見つけんな」
柱の後ろをのぞき込めばそこにはむすっとした龍臣先輩がいる。
安堂くんと話しているときから、チャージをしに行っただけにしては遅いと思ってた。
話しながらちらっと見たときにはもうチャージ機の周りに姿はなかったし。
通り過ぎる女の子たちがやたらと私の後ろを見ていたのも気づいてた。
あぁ、後ろにいるのか、と。
目立つって案外悪いことじゃないなと。
「何拗ねてるんですか」
「咲結が浮気するから」
「今のどこ見てたら浮気になるんですか」
…本当の浮気を一緒に目撃したというのに。
「…目的地変更」
「え」
龍臣先輩は私の手を引いて改札ではなく駅の外に出て行った。



