父さんの言いたいことはなんとなく分かる。
特に、母さんが入院することに決まった時のことなんかはわかりやすいだろう。
あれだけ嫌で、嫌で仕方なくて毎日泣いていたのに
今はこの生活に慣れてしまっている。
母さんがこの家にいなくていい、ってわけじゃなくて。
慣れただけ。
「その苦しいのも、悲しいのも。全部俺らが本気の本気で大切にしたいと思ってた証拠だ。けどな」
「……」
「忘れられたら、風化してしまったら、母さんはきっと悲しいよな」
その日は
目を閉じると父さんのあの複雑に歪められた表情が浮かんで
あの言葉の意味を考えてしまってなかなか眠れなかった。
――たとえばの話。
俺が死んで天国にいったとして
天国から父さんと母さんの姿を見ていられるとしたら。
葬式で泣きじゃくる父さんと母さんを見て、悲しくなって涙の雨を降らすだろう。
墓参りに来て、懐かしそうに俺との思い出を語る二人を見て、穏やかな風を吹かせるだろう。
……俺の事なんて忘れたように二人で楽しく過ごしていたら、その時は。
「……」
かあさん。



