何度も死んでいるわたしにとってはこの程度なんでもないから、迫真の演技をすることができる。

カッターの刃を首にめり込ませることくらいなんでもない。

もしかしたらもう血が出ているかもしれないけど、そんなの全然気にならない。

「なにって、誰かがストーカーするから、わたしは追い込まれてるの。このままなら、自殺をしたほうが楽かなって思い始めてるんだよ」

「……」

「わたしには、もう新しい恋人がいる。いつまでも過去には縛られたくないの。わかるでしょ。もうやめて、お願いだから、二度と近づかないでちょうだい」

ちょっと演技が過剰かもしれないとは思った。

次の恋に執着しているのに死にたいというのも、ちょっと矛盾しているかもしれないとも。

でも、短期間で結果を出すには、これくらいのことをやったほうがいいに決まっている。

海斗くんはまだそこから動こうとしない。

ただ、さきほどとはちょっと表情が変わっているような気がした。

なんていうか、顔から覇気のようなものがなくなっているような、そんな感じだった。

「……そうか、わかったよ。これ以上はなにも言わない。辛い思いをさせてごめんな」

海斗くんはそう言ってわたしに背中を向け、歩き出した。

わたしはその背中を見つめることしかできなかった。