「わたしが坊主にしてあげてもいいよ。お父さんはバリカン持ってたから」

「莉子が?いや、正直遠慮しておくよ。さすがにそこはプロに頼みたい」

「お父さんで試したことあるんだよ」

「どうせ失敗したんだろ?」

「まあ、そうだけど」

「父親なら娘の失敗も笑っても許せるけど、自分はそうとは限らないぞ」

「坊主ならそこまでの失敗はないと思うよ」

わたしがお父さんで失敗したのは、襟足あたりだけでよかったのに、頭の上の方まで刈ってしまったから。

全体を刈るならそれほど失敗する可能性はないと思う。

もっとも、その機会があれば、の話だけれど。

「やけにこだわるな。おれの髪型で遊ぼうとしているんじゃないのか」

「まさか。そのほうがいいと思ってるだけだよ」

こんな他愛のない会話、普段だったら何も思わない。

きっと授業が始まった頃には忘れている。

わたしは会話を成立させるのに必死だった。

思い付いた言葉を適当に並べ、なるべく感情を表には出さないように努力をしていた。

「まあ、莉子がそこまで言うなら、考えてもいいかな。ばっさりいくなら、高校卒業後でもいいだろうけど。さすがにそのときなら、いろいろと吹っ切れているだろうし」

海斗くん、そんな日は決してこないんだよ。

だってわたしたちは、もうすぐに死ぬんだから。