稿 男性アレルギー令嬢とオネエ皇太子の偽装結婚 ~なぜか溺愛されています~

 リリーシェンヌだった時のことはすべて忘れて……。
 その次の日から、お父様は殿下の話を口にすることが減った。本当に状況が落ち着いて話すこともなくなってきたのだろう。
 よく考えれば、殿下のことが話題に上ることなんて、ずっとほとんどなかった。だから、毎日のように殿下の話を聞いて心を乱されることはないはずだ。
 ……大丈夫……きっと。

「さて、では出かけてくるよ」
 ロイホール公爵邸でのパーティーが開かれる日、お父様が朝早くにロイホール公爵邸に向かって出て行った。
 会場に、殿下の思い人がいる可能性があるため、その人物を見極め話をするためだ。
 もしかすると、迷路の奥の東屋で会っていたというところまでは情報をつかんでいて、東屋に現れるかもしれないと見張られているのかもしれない。
 もしかして、その女性は私だとバレて、お父様が驚いた顔で戻ってくるかもしれない……。
 そんなことあるわけないのに。だって、いろいろ調べていたなら、もうとっくに分かっているはず。分からなかったというなら、エミリーは、私との時間を邪魔されないように……とても色々根回しをして誰にもばれないようにしてくれていたということだ。
 エミリーと、私だけの……夢のような時間。
 ああ、あれは夢だったのだ。きっと……。
 お父様が出かけて2時間ほどたった。
 パーティーはもう始まっているだろう。エミリーは……シェミリオール殿下は、皆の前に姿を現したのだろうか。それとも、東屋で来るかもしれない忘れてしまった思い人を待っているのだろうか。
 心がざわざわと波立つ。気持ちを落ち着けようと、刺繍をしようとしても、思い出すのはエミリーのことばかりで余計に気持ちが落ち着かない。
「お、お、お嬢様、ローレル様がおみえです」
 ドアがけたたましくノックされたかと思と、侍女がドアの外で早口でそう告げた。
 ローレル様が?