稿 男性アレルギー令嬢とオネエ皇太子の偽装結婚 ~なぜか溺愛されています~

「それならば、相手は貴族令嬢に違いないわよ。なぜ隠す必要が?……位がよほど低い女性?それとも容姿が劣るのかしら?他に問題が?」
「いや、会場には使用人もいるだろう。招待客とは限らない」
 ザワザワと声が途絶えることはない。
 容姿が何の問題になるのだろう。自分よりも見難い女性が選ばれたことで自尊心が傷つくとでもいうのかしら?
 皇太子妃になるということは、こんな風に皆に色々と言われるということだ。
 もし、男性アレルギーがあることがバレてしまえば……。私はどれほどの悪意にさらされるのだろう。
 ぶるりと、背中が寒くなった。
 怖い。怖い。
 壇上のエミリーに目を向ける。
 エミリーがいれば。怖いけれど、それでも側にいられたらと……思っていたのに。
 エミリーがもういないのならば……。シェミリオール殿下の隣に、私が立つ必要はない。
 お菓子を可愛いと言い、ブーケ・ド・コサージュをなんて素敵なのかしらと目を輝かせて見るエミリーがいないのであれば。
 女性の心を持っていることを知っているのは、味方なのはお姉様だけだと言っていた。
 エミリーがまだシェミリオール殿下の中にいるのか確認してもらえたらいいのに。
 他国に嫁いだ王女様……。とても頼めるところにいない。
「それから、もう一つ。ハンカチだ。イニシャルが入っている」
 ザワザワとさらに会場が揺れる。

「贈った人物であれば、イニシャルの文字を知っているであろう」
 ハンカチのイニシャル……!
「シェミリオールのSではない。本人のイニシャルである可能性がある……名乗り出てくれぬか。Rを名前に持つ息子が恋する者よ」
 走馬灯のように、エミリーと過ごした日々が頭に浮かぶ。
 一緒に刺繍をさしたね。エミリーは針に糸を通すだけでもとても楽しそうで。