稿 男性アレルギー令嬢とオネエ皇太子の偽装結婚 ~なぜか溺愛されています~

 特に高位貴族で、国内に影響力のある公爵家だ。「公爵家は〇〇家を見限ったようだ」なんてありもしない噂を立てられては貴族間のパワーバランスにさえ影響してしまいかねない。……と、言われていたくらいだから、当然エミリー……いいえ、殿下もそのような訓練は受けているだろう。
 作った笑顔をむけられながら……。だから、この張り付いたような笑顔は私だけに向けられたものではない。皆に同じように向けているだけだから気にしなくていいんだと……。
 そう思いながら、私も必死で笑顔を作る。
 誰にも悟られないように、この胸の内を知られないように。
 泣きそうだ。
 今にも涙が落ちそう。
 エミリーに会えた嬉しさで、思わず泣いてしまうかと心配していた。
 目の前に立つまでは。
 もし、泣いてしまったら「ご無事な姿を拝見でき」とかなんとかてきとうに誤魔化す言葉も考えていたくらいだ。
 でも、こうして目の前に立ったら。
 いくら、表情を動かさない訓練をしていたって、私は知っている。
 目だけは隠せないって。
 ちょっとした目の動きで、心があらわれるって私は知ってる。遠く離れた場所から見ているだけじゃ気が付かなくても……。目の前にいれば、目の動きは隠せない。商人たちは、そういう隠しきれない目の動きなどを読まれないため、駆け引きが必要な商談を、食事をしながら、お酒を飲みながら、薄暗い室内ですることもあるらしい。
 エミリーの目は何の感情も映していない。
 私に会えた嬉しさも驚きも楽しさも……何も。
 ああ、泣きそうだ。
 戦争で何があったのか。
 もう、私のことなどどうでもよくなったのか。
 もしかして、戦地で何か過酷な体験をして……エミリーは死んでしまったのかもしれない。
■★次
 これも聞いたことがある……。一人の人間に二つの人格があらわれる人がいるって。