稿 男性アレルギー令嬢とオネエ皇太子の偽装結婚 ~なぜか溺愛されています~

 誘拐なんてされたら、怖いよね。何をされるか分からない恐怖を味わったんだわ。
 もしかしたら窓もないくらい地下室みたいなところに何日も閉じ込められて、暗闇が怖くなってしまったのかもしれない。
 ……怪我はないということだから、拷問されるようなことはなかったんだろうけれど……。食事はちゃんと与えられていたのだろうか。腐った物とか食べさせられたり精神的な苦痛を与えられていた可能性だってある。
 エミリー。
 ああ、かわいそうなエミリー。
 そうだ。ポプリを送ろう。
 レースをタップり使った可愛い匂い袋を作るんだ。
 可愛くて、そしていい香りがすれば癒されるんじゃないだろうか。
 エミリー。ああ、この腕にぎゅっと抱きしめて、大変だったわね。もう大丈夫よと、慰めたい。
 ああ、そんなことよりも……。
 ただ、会いたい。
 会いたい、会いたい、会いたい!
 エミリーに一刻も早く会いたい!

「皇太子として王位を継ぐ資質に欠けるような問題ではないとは聞いている」
 そりゃぁ、暗闇が怖くなっても資質に欠けるとは言わないだろう。なにかがトラウマになって夜中に悪夢で飛び起きるようになっても。
 辛い記憶に、身を丸めてガタガタ震えるようなことがあっても。
 ずっと、心が女であることを隠して生きてきたエミリーだ。
 心の傷も上手に隠してしまうに違いない。
 ……でも、辛いなら、慰めさせて。
 エミリー、だって、私たち秘密を分かち合った仲でしょう?
「リリー、祝勝会はどうする?欠席するかい?出席するのであれば……その」
 お兄様の言葉に、すぐに答える。
「もちろん出席するわ!」
 しかも、あまりにもはっきりした返事をしてしまったため、お兄様がビックリした顔をしている。