稿 男性アレルギー令嬢とオネエ皇太子の偽装結婚 ~なぜか溺愛されています~

 首を横に振る。
 違う、泣いているのは、涙を流しているのは体調を崩してしまったことを情けないと思っているからではない。
「大丈夫です。心配しなくても。リリー様なら、皇太子妃になってもちゃんと務めを果たせますよ」
 ローレル様の口から皇太子という単語が出てドキリとする。
 ああ、そうか。私、皇太子妃になりたいと宣言したんだ。
 そして、こうして体調を崩しやすいというところを見れば、病弱な私で務まるかと不安になっているのだと思ったのかもしれない。
 ローレル様の手が、伸びて、そっと私を抱き寄せた。
「大丈夫、何も心配することはないわ。リリー様……」
「ローレル様……」
 ローレル様の胸に抱きしめられて、ずっとずっと一人で不安を抱えていた気持ちがストッパーを失ったようにあふれ出てきた。
 ローレル様の背中に手を回してぎゅっと。小さな子供が親に必死にしがみつくように、ローレル様に抱き着いた。
「私が……いいえ、辺境伯である我が家は全面的にリリー様を支えますわ」
 背中をゆっくりと撫でられる。
 ああ、暖かい。
 人に抱きしめられるのって、こんなにも暖かく心が落ち着くものなのだ……。
 エミリーに抱きしめられるとドキドキして顔が暑くなる。
 ローレル様に抱きしめられると、ほっとして心が温かくなる……。
 どちらも、幸せで。
 ローレル様と、エミリーと、皆と一緒にずっといられたらいいのに。
 ローレル様は辺境伯の領地にいつか帰ってしまうのだろう。今は舞踏会へ出るために王都にいるわけだし。
 どのたと結婚するのか分からないけれど、もしかしたらローレル様は他国へ嫁いでしまうかもしれない。となると、めったに会えなくなってしまう。
「ローレル様がお姉様ならよかったのに……」
 母がいない私。せめて姉妹がいればよかった。
 ふと、エカテリーゼ様の顔が浮かんだ。