稿 男性アレルギー令嬢とオネエ皇太子の偽装結婚 ~なぜか溺愛されています~

 どんっと、背中を押されてよろめく。
「おい、武器を隠し持っているかもしれない。確かめてから放り込め」
 頭の回る男の言葉に、思わず舌打ちをしそうになった。
 ブーツに小さなナイフが仕込んである。それを何とか取り出して縄を切って脱出を試みようと思っていたところだ。
「ありました、ナイフです」
「他にもないかよく探せ」
 残念ながらそれ以上は探しても出てはこない。
「なんだこれは?」
 胸ポケットから、小さな四角い木を盗られた。
「うわっ、不気味な絵だな、魔除けのお守りか?」
 リリーが私のためにくれたのよっ!汚い手で触らないでちょうだい!返してよっ!
 と、叫びたい声を必死に抑える。
「あははっ。お守りを持っていても、役に立たなかったな!ざまぁ!」
 男が、リリーから貰った大切な裁縫セットを床に投げつけた。ガシャンと音を立ててバラバラになった。
「おい、行くぞ」
 身体検査をしていた男は他に何もないと確認すると、部屋を出ていく。
 ガシャリとドアに鍵がかけられる音がした。
 朽ち果てかけている屋敷のドアなど、体当たりを何度も繰り返せば鍵ごと壊して出て行けそうだ。だが、あいにくと両手両足を縛られた状態では十分に力をドアにぶつけることができない。
 今頃、僕が攫われたことで、騒ぎになっているだろうか。
 交渉とは何を要求するつもりだろう。
 くそっ。
 小さな窓から差し込む月明かりがリリーのくれた裁縫セットの残骸を照らし、キラリと何かが光った。
「……これは……」
 壊れた裁縫セットから、3センチほどの刃が出ていた。
「そうなのね……糸を切るための刃を、木で挟んであったのね。そうよね、糸の幅だけの刃物なんて逆に作れるわけがないものね……」
 両手両足の縄を切りながら今後の行動を考える。