稿 男性アレルギー令嬢とオネエ皇太子の偽装結婚 ~なぜか溺愛されています~

 もし……「弟に継がせればいい、戦争は僕が」とエミリオが言い出せば……。
 戦争……。
 人が……死ぬ。たくさんの人が……。
 何故、戦争などという愚かなことが起きてしまうの?

 夕食の時間。お兄様は領地へと向かったため、お父様と二人の食事。
「お父様」
「ん?なにかな?なんだか思いつめた顔をしているが」
 お父様の顔は、疲れ切っている。それでも、私と食事をとるときには笑ってくださる。
 お父様は仕事が忙しいんだな、大変だとしか思っていなかった。私は、最近ずっとエミリーのことばかり考えていて……。
 何がそんなに大変なのかと、知ろうともしなかった。

「戦争が始まると聞きました……本当なのですか?」
 お父様が、口に運びかけていたスプーンを皿の上に戻した。
 ふぅと小さく息を吐きだしてから、私の目を見る。
「リリーの耳にも届いたかい。大丈夫、心配しなくてもいい」
「心配しなくてもいいというのは、戦争は起きないということですか?」
 お父様の表情は決して楽観していいようなものではない。
「いや、残念だが、戦争回避のために半年動いていたが、無駄に終わった」
 ごくりと唾を飲みこむ。
 青ざめた私を安心させようと、お父様が話を続ける。
「大丈夫だよ。30年ほど前に、北の国は内戦で3つに分かれた。我が国と国境を接する1つの国……サ国が、別れた3つの国を統一しようと動き始めたんだ。そしてその手始めに、豊かな土地をもつ隣接する我が領土を手に入れて国力をつけようと考えた」
「は?」
 お父様の説明に、思わず意味が分からずに口をあんぐり開ける。
 サ国というのは通称だ。別れた3つの国が自分たちこそ本流だと同じ名前を名乗っているため、我が国と近い順に通称「サ国、シ国、ソ国」と読んでいる。
「なぜ、北の国の統一をしようとして、まず我が国に攻め込むのですか?」