稿 男性アレルギー令嬢とオネエ皇太子の偽装結婚 ~なぜか溺愛されています~

 エミリーの手に渡ったものを取り戻して後ろのケースを開き針を取り出す。
「ほら、ここを開くと針が出てくるでしょう」
「まぁ!」
「それから、糸を、この隙間に入れるとハサミの代わりに切ることができるのよ」
「すごいわ、リリー!もしかして、糸とこのお守りを持っていれば、どこでも刺繍ができるっていうこと?」
 エミリーの目がキラキラしている。
 喜んでくれているのが分かって嬉しい。
「早速やってみましょう」
 針を2本取り出し、エミリーに1本渡し、1本は私が見本を見せるために使う。
「ああ、うれしいわ。私、刺繍をしてみたかったのよ、本当に私が……って、あら?糸を通すのも難しいのね、え?リリー何故そんなんすばやく糸を通せるの?ああ、ちょっと待って、えいっ、ああ、惜しい、やった!通ったわ!」
 糸を通すだけで大騒ぎのエミリー。かわいい。
 それから、お菓子をつまみながらエミリーと二人ハンカチに刺繍をしていく。
 と、言っても、エミリーは基本の基本からの練習。
「ああーん、なんで上手くできないのかしら?」
「初めてにしては上手よ」
「そう?そうかしら?きっと、リリーの教え方が上手いからね!」
「エミリーが器用なのよ」
「リリーのおかげよ」
 休憩をはさみながら、練習を重ね、エミリーはランニングステッチとバックステッチとアウトラインステッチとサテンステッチ、レゼーデージーステッチ、チェーンステッチまで覚えた。
 途中からは、話をしながら刺せるようになっている。

「そうだわ、ちょっと見ないでね!」
 二人の時間も残りが少なくなってきたのが、影の長さが教えてくれる。
 日が、落ち始めている。
 エミリーがそう言うと私の隣から少し距離を置いて座りなおした。
 ……隣にあった、エミリーのぬくもりが離れると、何とも寂しい気持ちになる。