稿 男性アレルギー令嬢とオネエ皇太子の偽装結婚 ~なぜか溺愛されています~

「ふふ、そうね。でも、今日は今日でお茶会を楽しみましょう」
 エミリーがカップを手に取った。
「あ」
 私のカップに手をのばそうとすると、スカートの上のハンカチに目がとまる。
 そうだ、エミリーが涙をぬぐってくれたハンカチ。
「エミリーは女性の習い事にあこがれるって言ったでしょう?」
 エミリーのハンカチを拾い上げて、手渡す。
「今から、このハンカチに刺繍をしてみない?」
「え?今から?私が?刺繍を?でも、裁縫道具なんて持ってないわよ?」
 ポケットから、仕立屋に作ってもらった裁縫セットを取り出す。小指2本分の小さな裁縫セット。
 それからオレンジ色の刺繍糸。あまりたくさんの糸は持っていけないと思った時に、すぐに選んだ色がオレンジだ。
 エミリーの髪の色。

「エミリーにプレゼントするわ」
「え?これは何?」
 手のひらに置いた裁縫セットを見てエミリーが首をかしげる。
「魔除け、かしら?」
 ガクッ。そうよね。そう、魔除けの紋様も書き込んだし、魔除けにしか見えないわよね。
「ありがとう、魔除けのお守りとして大切にするわ」
 ちょっと戸惑った顔をしてエミリーが受け取る。
「あのね、エミリー、これは一見魔除けのお守りに見えるでしょう?それは確かにそうなの。わざとよ、わざと。この魔物みたいな絵もわざと」
 本当は、違うけど。絵心が無かっただけなんだけど。カッコいい動物書きたかったのに、なぜか魔物みたいになっちゃったんだけど。それは黙っておく。
「ほ、ほら、これなら、魔除けのお守りって言えば、女の持ち物だと取り上げられることはないでしょう?」
「ふふ、確かに、お守りを取り上げるような人はいないわね。ありがとうリリー。肌身離さず持ち歩くわ」
 すっかりエミリーがお守りだと思い込んでしまった。
「違うの、エミリー、一見魔除けのお守りに見えるけれど、貸して!ほら、こうして使うのよ!」