稿 男性アレルギー令嬢とオネエ皇太子の偽装結婚 ~なぜか溺愛されています~

「そりゃぁ、もちろんあこがれるわよぉ。可愛らしいレースが自分の手の中から生まれて行くのでしょう。それに美しい模様が自分で刺せるのでしょう、あこがれるわぁ。でも、姉の習い事を見学することさえ許されなかったのよね……」
 見学すらも?ああでも、私が刺繍しているところをお兄様が見学することはなかったから、普通なのかな。
 習い事の時間はお兄様にはお兄様で学ぶことがあった。
「その時間は、エミリーは剣の稽古とかしていたんじゃない?」
 私の言葉に、エミリーが両手を広げて私に見せた。
「そうなのよ、もう、酷いわよね、見てよこの手の豆。皮は暑くなるし、みっともない豆はできるし、もう散々よっ」
 手をのばして、エミリーの手を握りしめる。
「全然みっともなくないわ。いつかこの手で大切な人を守ることができるかもしれないんだもの。素敵な手だわ」
 エミリーの手を私の頬に当てる。
「好きじゃないことなのに、サボらずに頑張った手。私はこの手が大好きよ」
 エミリーがちょっと泣きそうな顔になった。
「義務だからと……。そう思っていたけれど、そうね……。私が私を嫌っちゃだめね。リリーを守るために剣を持てるというなら、無駄じゃなかったわ……マメだらけの手だけれど……」
「私ね、修道院へ行こうと思っていたの」
「え?」
「修道院なら女性しかいないでしょう?それで色々と修道院のことを勉強したのよ。貴族の令嬢だったからといって、仕事が免除されることはないの。自分たちで土を耕し、野菜を育て料理をする。洗い物も洗濯も掃除も。きっと、今の私の手とは全く違う手になると思うわ」
 日に焼けるだろうし、爪の間は土で黒くなるだろう。水仕事でガサガサになって、指先の皮膚も固くなる。
「それでもきっと、私は自分の手が好きだわ。何もできない今の手より、きっと好きになるわ」
「いやよっ!いやよ、いやっ!」