これをきっかけに、安見はしばらく不機嫌であった。大滝の背中に、こっそり「0円」というシールを貼って遊んだりした。岩野に見せても意味がわからないのか愛想笑いしかしないので、途中でむなしくなったりもしたが。

 しかし安見、このところ肉が食いたくて仕方がない。誰でもいいから肉に付き合ってほしいのである。

 そこで強硬手段に出た。

 店にあった鉄板を使い、外で勝手に肉を焼くことにしたのである。焼いてさえしまえばこっちのもの。肉のにおいに誘われた大滝と岩野は、絶対に食らいついてくるに決まっている。

 安見が駐車場で何やら火遊びをしていることに気が付いた大滝は「バイトテロだ!」と叫んだ。


「失敬な。バーベキューですよ」

「なんだバーベキューか。バーベキュー?」

「店長、オレも食べていいですか!?」

「やめとけ。突然始まったバーベキューに参加するほど怖いことはない。きっと法外な参加料とかを取られるに決まってる」

「いやですね店長。ちょっと人間不信すぎますよ。おいで岩野。脂身のところをあげよう」


 岩野は走って肉にすがった。ほとんど犬のようであった。


「店長も我慢しちゃよくないですよ。ここなんかどうですか。筋が多くて歯ごたえがありますよ」

「さりげなく安い部位を押し付けようとしてるな」

「まあまあ……」