金持ちの家の子に生まれたといっても、大滝はそんなに欲がある方ではなかった。

 それは彼の母方の家が特に金持ちではなかったことが大きいかもしれない。大滝の母は、大滝の祖父がカンで選んで息子、つまり大滝の父に引き合わせたらしいが、それがなんだか上手くいっているのだから恐ろしいことである。大滝は自分なら、父が自分のために女性を連れてくる状況自体がなんか嫌だな、と思う。大滝の父がそんなことをしたことはないから、彼は独りなのだが。

 ともあれそんな境遇に生まれ育った大滝が突然浪費し出したため、安見はついにおかしくなったか、と内心焦っていた。岩野はなにかがおかしいことには気づいているものの、それが何かはわからないといった調子で基本的にはいつものようにぼんやり過ごしている。

 どこかに頼るしかないが、ばかに高そうな自転車で出勤したり、なにかと言えば高級焼肉に行こうとする今の大滝に、大滝の祖父の知り合いへの仲介は頼めない。

 そういえば、と安見は思い出した。たった一人、自分に名刺を寄越した人物がいたではないか。