「なんで剥がしたんですか」


 急に話しかけてきたのは、知らない男だった。顔中に黒い塗料で奇妙な文様を描いており、頭には唐笠を被っている。


「気になったからじゃないのかな」


 大滝は答えた。


「どうして他人事なんですか」

「おれが剥がしたんじゃないからね」


 大滝はふうっと煙を吐き出した。


「なるほど」


 奇妙な顔の男は腕組みをした。そして、言った。


「30万で貼り直しましょう」

「高いなあ。そんなに取られるなら自分でややりますからね。セロハンテープかなんかあったはずなんで」


 やれやれ、わかってないな、と奇妙な男は言った。


「そんなことしたら効果がないどころか、何が出てくるかわかりませんよ。最悪死人が出ますよ」

「ほんとう? 剥がして何もないなら何もないんじゃないかなあ。ところで、おたくは誰なんですか」

「お祖父様の依頼で札を貼った者ですよ」


 何者かの手によって札が剥がされた気配を感じ取って、駆け付けたのだという。


「そういうのわかるんですね」

「身体のどこかに、治りかけの瘡蓋を取るときの感じが来るのでわかります」


 痛そうだな。と大滝は思った。


「自分のタイミングでやりたいので、勝手に剥がされるの結構嫌です。それはどうでもいいとして」


 男はスタッフルームに入った。そこではストーブに当たっていた安見の全身が青く変色しており、泡を吹いて失神していた。