「これまでの人生で失くしたなかで一番デカいものってなんですか?」


 うーん、と大滝は考えたが、ものを失くしていないことはないにしても、その中で一番大きなものが何だったかなど咄嗟に思い出せる話でもない。こんなデカいもの失くすことある? という経験は、誰しもしているような気がするのだが。「ちなみに俺はランドセルです」と安見。すごくどうでもいい。


「まさか着ぐるみが走ってどこかに行くわけないしなぁ」

「無いでしょう。二宮金次郎像の怪談とかでしか聞いたことないですよ」

「小学校の怪談な。懐かしいよな。うちの学校にはそんな像無かったから、つまんないなと思ってたわ」

「うちもです」


 学校の怪談の話は、暇な就業時間にほんの少しの彩りを与えたのち、どちらからともなく終息していった。