「みなさん修学旅行ってどこ行きました?」

 今日も今日とて強烈に暇な午後、岩野がそんな定番の話題を振ってきた。

 大滝は京都、安見は東京方面だった。ふーん、と言って、会話が終わった。実のところ、修学旅行にいい思い出のない三人だった。

 岩野はホテルに戻れなくなり野宿をした。大滝は行った体で話しながらもインフルエンザで行けなかったし、安見は同じグループのメンバーにハブられてディズニーランドのベンチで泣いていた。


「なんで急にそんな話を」


 一番触れられたくない過去を持っている安見は、岩野に訊ねた。


「実はお二人がいないときに」


 学ラン姿の男の子が一人入ってきて、こういったのだという。


「修学旅行で来たんですけど、って」


 大滝と安見は顔を見合わせた。なんか怖い子だな、と思ったのだ。

 修学旅行でよりにもよってなぜたいそうな歴史があるわけでもないこの街を選んだのか。近くに見るものがあるわけでもないし、まして一人で。他の生徒はどうしたのだろう。安見はディズニーランドのベンチの感触を思い出して胸が悪くなった。