「採用ですか? まだ名前も名乗っていませんが」

「採用でいいですよ。わざわざ名乗ってもらわなくてもほら、履歴書に書いてあるし」

 履歴書には、青年の写真。狐みたいな顔してるな、と大滝は思った。写真の横に、神経質そうな字で『安見天晴』と書かれていた。

「あっぱれくん。景気のいい名前だな。よろしく頼むよ」
「チッ」

 大滝は耳を疑った。雇用が決まってから雇い主に舌打ちするまでの時間短すぎん? と思ったのだ。あっぱれくんじゃなくててんせいくんなのは、履歴書のふりがなの欄を見れば分かる。緊張しているかな、と心配したので、大滝は自分なりに場を和ませようとしただけなのだ。


「浅慮な人もいたもんだ」


 浅慮なんて直接人に言う人いるんだ、と大滝は更に耳を疑った。言われ慣れてなさすぎて、『せんりょ』が『浅慮』と理解するまでに時間がかかってしまった。

 それにしても、まるで心を読まれているかのような発言に、大滝の脈は乱れた。


「読めますよ、心」

 ほんとうに? と、大滝は思った。

「ほんとうです」

 安見が答えた。