「お疲れ様です、店長。店が忙しくなってきたので、お取込み中のとこ申し訳ないんですけど、戻ってもらっていいですか」


 ……安見だ。店が忙しくなることなどありえないから、事態を見越して助けに来てくれたのだろう。情けない話である。

「じゃそういうことなんですみません。……宮崎さん」 


 宮崎、と呼ばれた早坂は蒼い顔になった。岩野を大滝と名乗らせた罪があるので何も言えないが、早坂もまた、【早坂】ではなかったのである。

 大滝は慌ててテーブルに金を置くと、安見と共に店を後にした。

 しばらく歩いてから安見が、「店長、もう笑ってもいいですか」と言い出した。


「笑えよ、笑いたくて仕方なかったんだろ。俺は泣く」 


 安見はひきつけを起こしたように笑った。

「やばい。これ明日筋肉痛だわ」

「痛かったら休んでいいからな」


 安見は、二人で出かけようとする大滝と早坂――宮崎を見て、あ、あの女、でかい石とでかい壺のこと考えてる、と気づいたらしい。


「なんでその場で止めてくれなかったの」

「だって、女の子とお茶できる機会なんてそうそうないじゃないですか。その機会を奪っちゃうのはかわいそうでしょ」

「……そうだね」

 だから同窓会なんて嫌いなんだよクソが、と大滝は思った。

「同感です」と安見が言った。