何事かとそちらを見ると、安見が失神していた。


「なんで? 大丈夫?」


 野菜を断固拒否する岩野の気持ちが強すぎて、それをもろに感じ取った安見は頭の内側を直接殴られたような、激しい衝撃を受けたのだった。


「ウッ……ここはどこだ」

「全然大丈夫じゃなさそう……」

「店長……」


 安見は呻きながら、よろよろと立ち上がった。そんなに動いて大丈夫なのかと、人が倒れるのを初めて目撃した大滝は気が気でない。


「肉臭っ。仕事中に何やってんですか」


 大滝は耳を疑った。お前が言い出したんだろうが。


「俺は仕事中にバーベキューなんて節操のない真似はしませんよ」

「本気で言ってんのか?」

「はい」


 大滝に安見の心は読めないが、嘘を言っているような口ぶりではない。もしや記憶が一部消えるかなにかしてしまったのだろうか。


「店長ー」


 と、背後から岩野が声をかけてきた。


「なんだ。野菜なら食わなくていいぞ」

「違います。なんか燃えてるんですけど、どうしたらいいですか」

「あ」

 岩野がぽいぽい捨てた中に、火のついたままの野菜があったらしい。それは外に陳列されていたキリンのビニールプールに燃え移り、プールは一瞬にして溶けた。


「消せ消せ消せ消せ」

 大滝はパニックに陥った。

 幸い、キリンのビニールプールと箪笥の一部が燃えただけで火は消し止められた。

 しかし、「これって結局誰の責任なの」と訊ねても、安見も岩野も無視をするのだった。

 小火騒ぎからしばらく。


「店長。鍋奢ってください」


 安見がある日突然鍋を所望し出したので、大滝はまたおかしなことになる前に鍋屋に連れて行ってやったのだった。