そのまま東条くんが降りる駅まで息を潜めて。
そこを通りすぎてから、やっと息ができるような開放的な気持ちになった。

東条くんもあの女の子もいない。
当たり前だ。同じ高校なんだから、同じ駅で降りるのだ。

私は、東条くんが降りたら終わりだけど、さっきの女の子はまだ続きがある。
電車という場所がなくても、東条くんと並べる。

それに、さっきの仕草。
東条くんはあの子の頭を撫でていた。
私にしたみたいに、軽く、優しく。
もちろんだからといってあの女の子が東条くんにとって特別な存在だとは限らない。
あれくらいの仕草、大した意味はないのかもしれない。

でも私にとっては、あのとき、東条くんが触れてくれたことは特別だった。
私の気持ちを受け止めて、優しさで返してくれたように思えたのだ。

でも、それはたぶん私だけの気持ち。
東条くんにはそこまでの意味はなかったのだろうか。


「……はあ」

声を、かけれなかった。
もうキャンディはないのに。

今まであのキャンディが一つ一つ積み上げてくれたものが、いとも簡単に崩れてしまったような気がする。

「……私、頑張ったんだよ。たくさん……今まで……」