☆☆☆

8時8分、三番線。
私がこの電車にこだわるのは理由がある。

もちろん学校に遅刻しないことも大事なんだけど、実はそれなら一本あとの電車でも間に合う。(ギリギリにはなるけど)

だから、私がこの電車に乗る理由は……


(……あ、いた……)


電車の中。
何人もの乗客。
その中、で。
私の視線は一人の男子学生のところでとまる。

端の席に座り、本を読んでいる彼。
サラサラの黒い髪に、ノンフレームの眼鏡。そしてその奥、切れ長の黒い目。
この辺りで一番の進学校の制服を着ている。

少しうつむくようにページに目を落とす姿が、流れるようにページをめくる細く長い指が、とても綺麗だと気づいたのはもう何ヵ月も前のこと。

そう。
私は何ヵ月もの間、名前も知らない彼のことをずっと見つめている。
知っているのは有名進学校に通っていることと、毎朝この電車に乗っていることくらい。

それが私の朝の唯一の幸せ。
たった一つ、朝で好きなところだ。