「へえ。じゃあ、西園寺さんが朝の用意しているんだ?」

「両親が忙しいときだけね。……つっても、まあ、かなりの頻度で忙しいんだけど」

「朝、大変だね。僕は起きて30分は頭働かないから尊敬するよ」

「ふふ、東条くん、うちの弟たちと同じくらい厄介かもね」

「はは。…弟、確か三人いるんだっけ」

以前何気なく話したことを覚えてくれている東条くん。
それがとても嬉しい。

「そう。しかも全員小学生。もれなく悪がき。最悪」

「もれなく、って」

東条くんがクスクス笑う。

「……でも、西園寺さんきっといいお姉さんなんだろうな」

「え、……そんなことないよ」

東条くんから目をそらし、うつむく。
その瞬間。
ガタン!
と一際大きく電車が揺れた。

「きゃっ……」

「西園寺さんっ」

バランスを崩した私と、助けようとしてくれた東条くん。

でもどこをどうしたのか
扉を背にした私を、東条くんの腕が囲う。
まるでいわゆる壁ドンのように
私は東条くんの腕の中だった。

すぐそば。息がかかるほど近くに東条くんの全てがある。

「っ、ご、ごめん!ごめんね、西園寺さん!」

バッと、ものすごい早さで東条くんが離れた。

「い、いえいえいえいえ!私こそごめんなさい!」

「……いや、僕がごめんなさいだから。
あ、ああ、駅についた。そ、それじゃ、また……月曜日に」

東条くんが慌ただしく降りていく。

わああ、ビックリした。まだドキドキしているよ。
私、今日はもうなにも手につかないかもしれない。