藤と出会ったのは、もう6年も前になることに心底驚く。
藤は私に心底甘い。
どんなときも私を肯定してくれる存在など、見つかるとも思っていなった当時の私には、思わず依存してしまいそうなくらい蠱惑的な存在だった。


「瀬戸、お待たせ」

藤の声はいつも穏やかだ。
その声の調子と同じくらい、私に向けて発せられる言葉も穏やかで優しいものしか聞いたことが無い。

「藤、今日は早かったね」
「うん、瀬戸との約束はちゃんと守りたくて」
「そっか、ありがとう」

体質的に朝が弱くとも、私との約束を果たそうとしてくれる藤は優しくて細やかな気遣いをさりげなくくれるできた人間だと思う。
そんな藤だが、藤は元来、マメな性格ではないらしい。そんなところを見たことがない私には些か信じられないことだが、周囲の人から聞く藤の様子は、確かにマメな人という言葉の対極にあるように思う。